天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

山田洋・遺句集『一草』

 「古志」同人の山田洋さんの遺句集『一草』(花神社)が、奥様から送られてきた。山田洋さんとは全く面識もないので驚いた。この遺句集の行き届いた作られ方と奥様のあとがきに感動した。
 奥様の書かれた在りし日の山田洋さんの俳句への取り組みに、我が身を恥ずかしく思った次第。
山田洋さんは70歳になって俳句にはまり、長谷川櫂さんの「古志」に入会。長谷川さんや大谷さんの俳句を写経のようにノートやカードに書いて暗記した、という。79歳で胃癌の警告、80歳で十二指腸に転移し手術。残り時間は最長で5年間と宣告され、84歳で逝去された。
 句集の帯には、長谷川櫂さんの次の言葉が書かれてある。
 「誰も自分の死を知らない。見えざる死と闘った俳句がここにある。」
 掲載の作品群には、年齢相応の感懐が詠まれていて、共感を呼ぶ。特に惹かれるのは、2014年から死の2018年までの作品。闘病中のものである。以下に10句を引く。

     書初は師の新聞の一句より
     臘梅がこぼす浄土の光かな
     存へて小夜の中山初桜
     花の下乏しき詩嚢如何せん
     道をしへ道まちがへてこの齡
     補聴器やさながら音の蟻地獄
     生きてあることの不思議や雪螢
     いま一度花の吉野の夕月夜
     蝉しぐれ妻の背中を見送りぬ
     さつぱりと余命告知や寒鴉

 

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山田洋・遺句集