忘れる・忘却の歌(2/6)
忘るとは恨みざらなむはしたかのとかへる山の椎はもみぢず
後撰集・読人しらず
皆人の老をわするといふ菊は百年をやる花にぞありける
古今和歌六帖・読人しらず
人よりはわれこそさきに忘れなめつれなきをしも何か頼まん
古今和歌六帖・読人しらず
忘るなよほどは雲居になりぬとも空行く月のめぐり逢ふまで
拾遺集・読人しらず
ありま山ゐなのささ原かぜ吹けばいでそよ人を忘れやはする
後拾遺集・大弐三位
忘れずよまたわすれずよ瓦屋の下たくけぶり下むせびつつ
後拾遺集・藤原実方
ほどふれば人は忘れてやみぬらむ契りしことを猶たのむかな
千載集・和泉式部
一首目: 「はしたかの」は枕詞。ハシタカの羽や尾、また、鈴をつけ鳥屋 (とや) に飼う意から、「端山 (はやま) 」「尾上 (をのへ) 」「すず」「外山 (とやま) 」などにかかる。
大弐三位の歌には、詞書「かれがれなるをとこのおぼつかなくなどいひたりけるによめる」がついている。途絶えがちになった男が、「お気持ちが分からず不安で」などと(手紙で)言っていたので詠んだ歌、ということ。歌の意味は、「有馬山から猪名の笹原に風が吹くと、笹はそよそよとなびかずにはいられない。さあ おなじことですよ、音信があれば心は靡くもの。わたしがあなたを忘れるなどありましょうか。」