忘れる・忘却の歌(3/6)
忘るるは憂世のつねと思ふにも身をやるかたのなきぞ侘しき
千載集・紫式部
思ふをもわするる人はさもあらばあれ憂きを忍ばぬ心ともがな
千載集・源 有房
嬉しくば忘るることもありなましつらきぞ長きかたみなりける
新古今集・清原深養父
忘れじと言ひしばかりの名残とてその夜の月は廻り来にけり
新古今集・藤原有家
忘るなよ今はこころの変るともなれしその夜のありあけの月
新古今集・藤原家隆
そのままにまつの嵐もかはらぬを忘れやしぬる更けし夜の月
新古今集・宗円
忘れてはうち嘆かるるゆふべかな我のみ知りてすぐる月日を
新古今集・式子内親王
清原深養父は、平安時代中期の歌人・貴族。勅撰歌人であり、『古今和歌集』(17首)以下の勅撰和歌集に41首が入集している。掲載歌の意味は、「嬉しい思い出だったら、忘れることもあるだろうに、あの人の薄情さゆえの堪えがたい苦しみだけが、長く消えない恋の形見だった。」
藤原家隆の歌の意味は、「忘れないで下さい。たとえ今は心変わりしていても、慣れ親しんで共に過ごした、その夜の有明の月を。」ということで、有明の月の記憶だけであってもつながっていてほしい、と願う未練を詠んでいる。家隆は新古今集の撰者の一人。