天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

忘れる・忘却の歌(4/6)

  身にそへるその面影も消えななむ夢なりけりと忘るばかりに
                   新古今集・藤原良経
  わすれじの行末まではかたければ今日をかぎりの命ともがな
                  新古今集・儀同三司母
  わすれじの言の葉いかになりにけむ頼めしくれは秋風ぞ吹く
                 新古今集・宣秋門院丹後
  いまぞ知る思ひ出でよと契りしは忘れむとてのなさけなりけり
                     新古今集西行
  忘れなば生けらむものかと思ひしにそれもかなはぬ此の世なりけり
                 新古今集・殷富門院大輔
  忘るなよ宿るたもとは変るともかたみにしぼる夜半の月影
                   新古今集藤原定家
  忘れじのただ一言をかたみにてゆくもとまるもぬるる袖かな
                  新勅撰集・八条院高倉

 

 一首目は、「夢を詠う(8)」ですでに紹介したもの。「我が身につきまとってはなれないあなたの面影など消えてしまえばいいのに、あれは夢だったのだと忘れてしまえるように」の意。
 二首目は、「いつまでも忘れまいとすることは、遠い将来まではとても難しいものだから、いっそのこと、今日を最後に私の命が終わって欲しい」という意味。なんとも切ない女心。
 藤原定家の歌は、「忘れないでくださいね。涙や月が宿る袂が変わっても、涙にくれながら濡らした袂に宿る今宵の夜半の月の光を。」という意味で、素直な構成になっている。

 

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夜半の月影