涙のうた(2/11)
つつめども袖にたまらぬしら玉は人をみぬめの涙なりけり
古今集・安倍清行
おろかなる涙ぞ袖に玉はなす我はせきあへずたきつ瀬なれば
古今集・小野小町
おとなしの河とぞ遂に流れ出づるいはで物思ふ人のなみだは
拾遺集・清原元輔
人知れず落つる涙のつもりつつ数かくばかりなりにけるかな
拾遺集・藤原惟成
君がためおつる涙の玉ならばつらぬきかけて見せましものを
後拾遺集・藤原経信
しのびねの涙なかけそかくばかりせばしと思ふころの袂に
後拾遺集・大弐三位
しのぶれど涙ぞしるき紅にもの思ふそでは染むべかりけり
詞花集・源 道済
なげけとて月やは物を思はするかこち顔なるわが涙かな
山家集・西行
一首目: [詞書]に、下つ出雲寺で行なわれた人の法事で、導師が語った法話を歌に翻案して詠み、小野小町の許に贈った、とある。一首の意味は「包もうとしても、袖に溜めることができずにこぼれてしまう白玉は、あなたに会えなくて悲しんで流す涙なのでした。」
二首目: 一首目の安倍清行に対する返歌。意味は「、玉になるぐらいの涙なら大した事はない、私の方は堰き止められないほどの激流になっていますよ。」
四首目: 「数かく」は、物の数をかぞえる時にしるしとなる線などを記すこと。一首目の意味は、「片思いは、流れる水に数を書き記すようにはかないことだと言いますね。私も、人知れずこぼした涙が積もり積もって川のようになり、むなしく数を記すほどになってしまいましたよ。」
西行の歌: 百人一首にも載っている有名歌。「月前の恋」という題詠で、意味は「「嘆け」と言って、月は私に物思いをさせるのか、いや、そうではない。つれない恋人のせいだ。それなのに月のせいにして、うらめしそうな顔つきで流れ落ちる私の涙であることだ。」