涙のうた(4/11)
くれなゐに涙の色のなり行くを幾しほまでと君にとはばや
新古今集・道因
忍ぶるに心のひまはなけれどもなほ漏るものは涙なりけり
新古今集・藤原兼実
わが恋はしる人もなしせく床の涙もらすなつげのをまくら
新古今集・式子内親王
恋ひわぶる涙や空にくもるらむひかりもかはる閨の月かげ
新古今集・藤原公経
後の世をなげく涙といひなしてしぼりやせまし墨染めの袖
新古今集・藤原重家
袖のうへの涙ぞ今はつらからぬ人に知らるるはじめと思へば
新勅撰集・宜秋門院丹後
君こふと夢のうちにもなく涙さめての後もえこそかわかね
新勅撰集・源 頼政
人の子の遊ぶを見ればにはたづみ流るる涙とどめかねつも
良寛
式子内親王の歌: 意味は「私の恋する想いなど誰も知る人はいない。つげの枕よ、せき止めている床の涙をもらさないでほしい。」
宜秋門院丹後の歌: 紀貫之の「荻の葉のそよぐ音こそ秋風の人にしらるる始めなりけれ」を本歌とする。意味は、「袖の上に溜まった涙は、今はもう辛くは感じない。これが、あの人に私の思いを知ってもらう最初のきっかけとなるのだと思えば。」
良寛の歌で、「にはたづみ」は以前にも出たように「流る」にかかる枕詞。