涙のうた(5/11)
あさみこそ袖はひづらめ涙川身さへ流るときかばたのまむ
古今集。在原業平
つれづれのながめにまさる涙川袖のみぬれて逢ふよしもなし
古今集・藤原敏行
世とともにながれてぞゆく涙川ふゆも氷らぬみなわなりけり
古今集・紀 貫之
なみだがはまくら流るるうきねには夢もさだかに見えずぞありける
古今集・読人しらず
ふちせともこころも知らずなみだ川おりやたつべき袖のぬるるに
後撰集・大輔
涙川そこのもくづとなりはてて恋しき瀬々にながれこそすれ
拾遺集・源 順
涙川のどかにだにもながれなむこひしき人のかげや見ゆると
拾遺集・読人しらず
この一連は、涙川の歌を集めたもの。涙川は、涙がとめどなく流れることの比喩。
在原業平の歌: 意味は「浅い思いだからこそ袖が濡れる程度の涙川なのでしょう。御身まで涙に流れる真情を聞いたなら、その恋の情をたのみにしましょう。」
藤原敏行の歌では、「眺め」と「長雨(ながめ)」とが掛詞の関係にある。古今集の特徴技法。
紀 貫之の歌: 涙川の水に浮かぶ泡は、水に思いがこもっているので、冬でも凍らない、という気持を詠っている。必ずしも作者自身の涙に限定する必要はなく、一般論としても解釈できる。