涙のうた(7/11)
夜もすがらちぎりしことを忘れずは恋ひむ涙の色ぞゆかしき
後拾遺集・定子皇后
こぞよりも色こそこけれ萩の花涙の雨のかかる秋には
後拾遺集・麗景殿前女御
くれなゐの濃染(こぞめ)の衣うへに着む恋の涙の色隠るやと
詞花集・藤原顕綱
五月雨の空だに澄める月影に涙の雨は晴るるまもなし
新古今集・赤染衛門
女らの空涙とはことかはり熱くも頬をつたひぬるかな
吉井 勇
雪の日に幼き孫が持ち出せば涙ぐましき江戸名所図絵
岡 麓
ぶらんこは森に垂れつつ妻に湧くいかなるものを耐えし涙か
田井安曇
昼ともすひかりのもとにまなじりに涙ためつつ子は乳を吐く
御供平佶
定子皇后の歌: この歌は辞世の歌で、亡くなった後に御帳の紐にこの歌が結び付けられていたのが見つかったという詞書を持つ。歌の内容は、自分を喪った相手が本当に悲しんでくれているのか、その涙の色が見たい、と叶うことのない願いを詠んでいることになる。
岡 麓の歌: 江戸名所図絵は、天保年間に7巻20冊で刊行された。神田の町名主であった斎藤長秋・莞斎・月岑の3代にわたって書き継がれたもの。「涙ぐましき」という感情が共感しにくいか。幼き孫が持ち出して来たところに感動したのだ。
田井安曇の歌: 妻と作者は並んで森に垂れているぶらんこを見ていたのだろうか。その時、妻の涙を見たのだ。「ぶらんこ」とあるので、子供が関係しているように思えるが、「いかなるものを耐えし」とあるので、違うのだろう。