各俳人がよく用いた副詞
俳人毎に最もよく用いた副詞がある。各人五句以上に使った例を全てあげよう。
芭蕉の場合: 「まだ」「まづ」「猶」の三種。
「まだ」九句
見る影やまだ片なりも宵月夜
京まではまだ半空(なかぞら)や雪の雲
春たちてまだ九日(ここのか)の野山かな
木曾の痩(やせ)もまだなをらぬに後の月
曙はまだむらさきにほととぎす
初茸やまだ日数へぬ秋の露
ちさはまだ青ばながらになすび汁
蕎麦はまだ花でもてなす山路かな
前髪もまだ若艸の匂ひかな
「先/まづ」九句
先しるや宜竹(ぎちく)が竹に花の雪
ばせを植てまづにくむ荻の二ば哉
やまざくら瓦ふくもの先(まづ)ふたつ
物の名を先(まづ)とふ蘆のわか葉哉
鹿の角先(まづ)一節(ひとふし)のわかれかな
城あとや古井の清水先(まづ)問(とは)む
桟(かけはし)や先(まづ)おもひいづ馬(こま)むかへ
西か東か先(まづ)早苗にも風の音
先(まづ)たのむ椎の木も有(あり)夏木立
「猶/なほ」六句 (相変わらず、さらに、よりいっそう などの意味)
かなしまむや墨子芹焼を見ても猶
梅の木に猶(なほ)やどり木や梅の花
猶(なほ)見たし花に明行(あけゆく)神の顔
ひよろひよろと猶(なほ)露けしや女郎花
秌(あき)の風伊勢の墓原猶(なほ)すごし
鶏頭や雁の来る時なほあかし
蕪村の場合: 「とかく」「又」の二種。
「兎角/とかく」五句 (あれやこれや、ともかくも などの意味)
兎角(とかく)して踊となしぬ若イ者
とかくして一把(いちわ)に折(おり)ぬ女郎花
八朔もとかく過行(すぎゆく)おどり哉
此森もとかく過(すぎ)けり百舌おとし
とかくして散る日になりぬ冬のうめ
「又」五句
苗代や浮世の塵の中に又
きのふ暮けふ又くれてゆく春や
烏(からす)稀(まれ)に水又遠しせみの声
初雪や消(きゆ)ればぞ又草の露
いざや寝ん元日は又翌(あす)の事