夢を詠う(1)
夢の語源は「寝(い)ぬ・見(め・み)」にある。つまり寝て見るもの。
み空行く月の光にただ一目(ひとめ)相見し人の夢にし見ゆる
万葉集・安都扉娘子
思はぬに妹が笑(ゑま)ひを夢に見て心のうちに燃えつつぞをる
万葉集・大伴家持
思ひやるこしの白山しらねどもひとよも夢にこえぬ夜ぞなき
古今集・紀 貫之
うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき
古今集・小野小町
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを
古今集・小野小町
ぬるが内に見るをのみやは夢と言はむはかなき世をも現とはみず
古今集・壬生忠岑
夢にだに見ゆとはみえじ朝な朝な我が面影にはづる身なれば
古今集・伊勢
夢にだにあふことかたくなり行くは我やいをねぬ人や忘るる
古今集・読人しらず
万葉集の二首は、素直で分かりやすい。対して古今集になると理屈っぽくなる。壬生忠岑は、寝ている間に見るもののみが夢とは限らない、はかない現実も夢なのだ、と詠う。伊勢は、恋やつれした姿を毎朝恥ずかしく思っているので、夢においてもあなたに見られたくない、という。最後の読人しらずでは、夢にも逢うことが難しくなっているのは、自分が寝られなくなったからなのか、相手が自分を忘れたからか、と嘆いている。