天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

夢を詠う(3)

露

  夢かとも思ふべけれど覚束な寝ぬに見しかばわきぞかねつる
                       後撰集・清成女
  思ひねのよなよな夢にあふことをただ片時のうつつともがな
                     後撰集・読人しらず
  うつつにもあらぬ心はゆめなれや見てもはかなきものを思へば
                     後撰集・読人しらず
  陽炎(かげろふ)のほのめきつれば夕暮のゆめかとのみぞ身を
  たどりつる              後撰集・読人しらず


  夢よりもはかなき物はかげろふのほのかに見えし影にぞありける
                     拾遺集・読人しらず
  夢よゆめ恋しき人に逢ひみすな覚めての後はわびしかりけり
                     拾遺集・読人しらず
  現(うつつ)にも夢にも人によるし逢へば暮れ行くばかり嬉しきはなし
                     拾遺集・読人しらず
  夢にさへ人のつれなくみえつれば寝ても覚めても物をこそ思へ
                     拾遺集・読人しらず


後撰集一首目:あの人を見かけた現実は夢なのではないか、でも寝ていないので夢ではないはず、判断がつかない。と、実は心躍る思いの歌である。
後撰集四首目:相聞のやり取りの男の歌で、「この逢瀬も夕暮の陽炎が見せた夢なのではと、我が身に残る記憶をたどってしまった」という。女の返歌は「ほの見ても目なれにけりと聞くからに 臥し返りこそ死なまほしけれ」(一目お逢いしただけで夢に見るほど見飽きてしまったなんて、もう死んでしまいたい)となっている。