天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

夢を詠う(5)

枕

  うたたねの夢や現に通ふらむ覚めてもおなじ時雨をぞ聞く
                    千載集・藤原隆信
  おもひねの夢に慰む恋なれば逢はねど暮のそらの待たるる
                   千載集・摂政家丹後
  仮寝(うたたね)に果(はか)なくさめし夢をだにこの世に
  または見でや止みなむ          千載集・相模


  春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそをしけれ
                    千載集・周防内侍
  見るゆめの過ぎにしかたをさそひきて覚むる枕も昔なりせば
                    千載集・藤原家隆
  これや夢いづれか現はかなさを思ひわかでも過ぎぬべきかな
                  千載集・上西門院兵衛
  人ごとにかはるは夢のまどひにて覚むればおなじ心なりけり
                    千載集・藤原兼実
  驚かぬわが心こそ憂かりけれはかなき世をば夢と見ながら
                      千載集・登蓮


千載集・相模は、うたたねの夢に見たあの人との仲は、この世でまた見ないままになるのであろうか、と詠う。
周防内侍のこの歌を本歌取りした塚本邦雄の歌「春の夜の夢ばかりなる枕頭にあっあかねさす召集令状」は有名。
登蓮(とうれん)は、平安時代後期の歌人、僧。中古六歌仙のひとり。僧侶としての悟りの境地を憂鬱に感じていたのであろうか?