夢を詠う(8)
覚めて後夢なりけりと思ふにもあふは名残の惜しくやはあらぬ
新古今集・藤原実定
身にそへるその面影も消えななむ夢なりけりと忘るばかりに
新古今集・藤原良経
夢かとよ見しおもかげもちぎりしも忘れずながら現ならねば
新古今集・藤原俊成女
あふとみて事ぞともなく明けにけりはかなの夢の忘れがたみや
新古今集・藤原家隆
床(ゆか)近くあなかま夜半のきりぎりす夢にも人の見えもこそすれ
新古今集・藤原基俊
かくばかり寝で明しつる春の夜にいかに見えつる夢にかありけむ
新古今集・大中臣能宣
春の夜の夢にありつと見えつれば思ひたえにし人ぞ待たるる
新古今集・伊勢
春の夜の夢のしるしは辛くとも見しばかりだにあらばたのまむ
新古今集・盛明親王
藤原良経の歌: 我が身につきまとってはなれないあなたの面影など消えてしまえばいいのに、あれは夢だったのだと忘れてしまえるように、の意。
藤原基俊の歌: 床近く鳴くこおろぎ(=きりぎりす)の声がうるさくて、あの人の夢が見られないではないか、という意味。
大中臣能宣の歌: 恋人と寝ないで明かした春の夜を振り返って、その恋人に送ったもの。夢のような逢瀬だった、と幸せ感を詠んだのだろう。ただ下句が分かりにくい表現になっている。