夢を詠う(12)
熱のあるこころさびしも夢にさへ息切々と船漕奴隷(ガレリアン)われ
滝沢 亘
われはいまうめきつつありさめやらぬ夢また夢のつみふかきため
坪野哲久
貧病苦ただこれのみを財としてつながる無辺の夢ありにける
山田あき
夢に見てながく忘れず蛹から出てゆくときのかの恐ろしさ
大西民子
知恵を持つかれんなけもの夢に見し夜明けはうぶ毛かすかにひかる
永井陽子
夢のなか硝子の破片拾いゆくしだいに大きくまぶしくなりぬ
花山多佳子
生死夢(せいしむ)の境は何か寺庭にかがやく梅のなか歩みゆく
佐藤佐太郎
昼靄(ひるもや)の寒くこめたる街をゆく明(あけ)がたの夢
よみがへりつつ 佐藤佐太郎
滝沢亘は、少年時より肺病と闘い、サナトリウムに入りながら作歌活動を続けた。(「形成」に入会し、木俣修に師事)1966年、41歳で亡くなった。
坪野哲久と山田あきは夫婦であった。哲久は戦前、プロレタリア歌人同盟を結成して、何度か検挙され獄中生活も体験し、会社勤めもままならなかった。82年の生涯であったが、夫婦の苦労が両者の歌に現れている。
永井陽子の歌の下句は、彼女自身の体を詠んでいる。ただ、けものとうぶ毛が呼応して不思議さが伴う。
佐藤佐太郎の一首目: 生と死と夢の境界は、当人にとってはよく判らないのではないか。特に夢の中にあっては。