夢を詠う(14)
夢違(たが)へやらむと微笑(みせう)たまへども夢といふもの
なきは如何にせむ 北沢郁子
病み衰えし人抱き上げたる今朝の夢一日腕に軽さが残る
本土美紀江
追ひつめてゐたりしものは何ならむ夢よりさめてまたしんの闇
小野興二郎
生くる黴吐きしや胸を揺りあげてさびしい夢の続きの嘔吐(おうと)
秋山律子
わが日日は夢あり愛あり目つむれば光溢るる海のごとしも
横山三樹
午後三時昼寝の眠り醒めにけり夢にこわれし桃色の壜
土井紀枝
ゆめに散る花ことごとく蒼くしてこの世かの世にことば伝えよ
井辻朱美
いはれなき死を強ひられし夢にゐてわれ従順にしたがふはなにゆゑ
西村美佐子
一首目: 夢違(たが)へとは、悪夢を見たとき、それが正夢とならないよう、まじないをすること、だが夢を見ないときには無用である。
二首目: 「腕に軽さが残る」は、夢で抱き上げた人の軽さだったのか、夢では重かったのに、現実に戻ったら抱いていないので軽かった、ということなのか。前者と解釈したい。
秋山律子は夢を見たあとに嘔吐したという。対して次の横山三樹は幸福感があふれている。井辻朱美の歌は何を訴えたいのか? 上句と下句をどうつなげて解釈するのか、難しい。西村美佐子の夢は案外他の人も見るのではないか。従順なことを示そうとする気持が背後にあると思われる。