天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

道づくし(3/11)

箱根路(古道)

道には合成語として、坂道、信濃路、都大路、夢路、地下道、高速道路、柔道 など様々な言葉がある。地名の下につくときには、東海道や北海道のようにそこへ行く道、その地域内を通じている道の意を表す。道や路を含む合成語の効果は、ロマン(物語性)が纏い付くということではないか。

  みすず刈る信濃の吾が家いや古りてかの大時計今もうごくか
                     今井邦子『紫草』
  信濃路はあかつきのみち車前草(おほばこ)も黄色になりて霜がれにけり
                   斉藤茂吉『ともしび』

以下では、このような合成語まで含めて道のうたを取り上げる。
初めは、物理的通路としての「道」の歌。
  春の日に張れる柳を取り持ちて見れば都の大路思ほゆ
                万葉集大伴家持
  信濃道は今の墾道刈株(はりみちかりばね)に足踏ましなむ履着(くつは)けわが背
                      万葉集・東歌
  君が行く道の長路(ながて)を繰り畳ね焼き亡ぼさむ天の火もがも
                万葉集・狭野茅上娘子
  夏と秋と行きかふそらの通路はかたへすずしき風やふくらん
                  古今集凡河内躬恒
  よしの山去年のしをりの道かへてまだみぬ方の花をたづねむ
                     新古今集西行
  箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に波の寄るみゆ
                 源実朝金槐和歌集