道づくし(4/11)
続き
赤羽根の汽車行く道のつくづくし又来ん年も往きて摘まなん
正岡子規『子規歌集』
春を断る白い弾道に飛び乗つて手など振つたがつひにかへらぬ
斎藤史『魚歌』
大雪山の老いたる狐毛の白く変りてひとり径を行くとふ
宮 柊二『忘瓦亭の歌』
ひとところ蛇崩道(じやくづれみち)に音のなき祭礼のごと菊の花さく
佐藤佐太郎『星宿』
ゆるされてけふ歩みゆく野の路の躓くさへにわれは楽しく
上田三四二『涌井』
ひとりゆく君が旅路に愛でまさむ山の妬まし海の妬まし
蒔田さくら子『秋の椅子』
暗道(くらみち)のわれの歩みにまつはれる蛍ありわれはいかなる河か
前登志夫『子午線の繭』
北指して帰る鶴らが行き行かむ天路を想ふ地上のわれは
来嶋靖生『島』
そのむかし人が日に日に歩きける十里のみちは真実遠き
小池光『草の庭』
夜は大きな青馬なれば浅葱色の目をうるませて鉄路を渡る
梅内美華子『横断歩道』
古道ゆく妃(ひ)なるわたくし黒靴は雪に濡れつつ死を越えいづる
水原紫苑『くわんおん』
産道とうこの世で一番やわらかく短き道を今も誰か行く
前田康子『ねむそうな木』