天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

死を詠む(6)

蜩

  一枚の筵の下にからだ延べ勝利のごとく死ぬるを見たり
                      香川 進
  山峡ゆくだりきたりし木津川のたぎちはわれの死のときのこえ
                      香川 進
  爽やけきひと世をねがえば地に落つる蜩のごと死なれぬものか
                      香川 進
  天上の紺のしずけさすでにして止まれる時間に死はつながれり
                      香川 進
  その子を肩ぐるまして川を見ている男死ぬまで川を見ていよ
                     佐佐木幸綱
  女(ひと)よ、いま他国の死こそ泡立ちてわがめぐりまかがやく真夏の鏡
                     佐佐木幸綱
  死がすなわち鋼(はがね)のごとき寒さなら遅れし吾も今日寒くいる
                     佐佐木幸綱
  人間の死も一本の樫の死もつつましくそのめぐりを照らす
                     佐佐木幸綱


香川の一首目は、主張を曲げずに死んだ罪人を想像させる。筵を被せられた死体への感想。
二首目から四首目は、香川の死生観であろう。佐佐木幸綱の一首目、二首目は難解。対して三首目、四首目は理解しやすい。