天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

死を詠む(8)

卵黄

  亡き人をあしざまに言ふを聞きをればわが死のあとの
  はかり知られず            大西民子


  死ぬ時はひとりで死ぬと言ひ切りてこみあぐる涙堪へむ
  としたり               大西民子


  自らの死のために押す釦一つその感触を追ひて夜半ゐつ
                     高嶋健一
  人死にしうすくらやみの皿の上卵黄一顆のごとくしづもる
                     高嶋健一
  幕降ろす主役己の死のやうに思ふに違ふ人の悲しみ
                     栗原孝子
  死の影を残しし人は永遠に死を死ねざれば此処に残れり
                    大野かね子
  フセインもブッシュ小泉また我も死より遠きにもの言いており
                    小林のぶ子
  我の死の近づき居るを知るなれど命のことは何も知らざる
                    鹿児島寿蔵


大西の二首目は、協議離婚した夫との間で、ある時交わされた会話の一端だとかってに解釈すれば、哀れが増してくる。高嶋健一の一首目の上句は分かりにくい。まさか自殺を決意する状況の想定ではあるまい。栗原、大野、小林などの作品も解釈に戸惑う。対して鹿児島寿蔵の歌は、よく理解できる。