天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

松の根っこ(4/15)

ピアノ

キリスト教
三鬼が俳句を始めた昭和十年前後は、新興俳句の勃興期であった。ミッションスクールの青山学院の出身であり、二十歳代の二年ほどをシンガポールで生活し、国際都市神戸に住んでいたこともあるコスモポリタンなので、キリスト教関係にも新興俳句の題材を求めたのは、自然の成り行きであろう。初期の昭和十年に、「アヴェ・マリヤ」と題して五句を、また昭和十一年に、「魚と降誕祭」と題して六句を第一句集『旗』に掲載している。ただ、聖書に出てくる情景を現実にひきつけて俳句にした印象が強く、作り物の感が否めない。むしろ、昭和二十六年に、静塔カトリック使徒となる四句や、日常でふと詠んだ次のような句が好ましい。
   ピアノ鳴りあなた聖なる冬木と日
昭和十二年に発表しているが、自注には、「静養期の作であり、病後の精神は清らかなものを求め楽しんだらしい」とある。初出は、座五が、日と冬木で、逆順だった。これでは「聖なる」が曖昧な掛かり方になるので、掲出のように直したのであろう。
   蟹の脚噛み割る狂人守ルカは
これは、静塔へと題した昭和三十一年の一句。精神科医平畑静塔自身が狂人と区別つかないほどの迫力がある。