天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

松の根っこ(6/15)

枯野

枯野
三鬼は枯野の風景に大変惹かれたようであり、また彼の風貌が枯野によく似合う。「枯」が入っている句は『西東三鬼全句集』二七三五句中、二パーセント強あり、特に戦後数年間の作品に目立つ。
   枯野の縁に熱きうどんを吹き啜る
枯野の縁、が奇妙・絶妙な情景を喚起する。
   枯野の中独楽宙とんで掌(て)に戻る
独楽を宙に投げ廻して掌に戻す遊びは、珍しいものではないが、枯野の中、となると楽しさよりは孤独感が漂う。
   柩車ならず枯野を行くはわが移転
初出は、枯野を進む、であった。引越し荷物を運ぶ自分の姿を客観視してなった句である。
進む、とするよりは、行くとする方が侘しさが濃く出る。
   姉の墓枯野明りに抱き起す
昭和二十四年天狼一月号に発表した句だが、
   霜の墓抱き起されしとき見たり 
という昭和二十三年の波郷句の本歌取りと思われる。波郷の句が、境涯俳句として、また読みについても有名になったため、本歌取りとしては力不足。
ちなみに、三鬼の植物関係の季語の傾向を句集ごとに分析すると、『旗』11%、『夜の桃』17%、『今日』23%、『変身』20%、と戦後は特に数は増えていくが、花鳥諷詠の趣味的な取上げ方からは程遠く、例えば、麦、稲、青梅、林檎 のような生活に密着した季語が多い。花では、桜、薔薇、向日葵などが目立つところはいかにも三鬼らしい。