松の根っこ(7/15)
赤と黒
俳句は季語がなくても、色で情感を出せることを立証しようとしているかの取組み様である。
雲黒し土くれつかみ鳴く雲雀
何よりも土くれをつかむ、という表現が優れており、黒雲を配することで、雲雀の必死なイメージを喚起させる。
黒人の掌(て)の桃色にクリスマス
初出は、降誕祭だが、クリスマスと表記することで、黒人米兵らしさが加わる。黒と桃色が同居すると生き物はエロチックになる。昭和二十二年の作。
赤き火事哄笑せしが今日黒し
炎の生と死を色で象徴させた。
星赤し翅うち交む油虫
赤い星は不吉の象徴だが、その下で油虫が翅
うち震わせて種を残す営みをしている取り合わせで、生への執着の凄まじさを描く。
黒く黙り旅のここにも泥田の牛
初句に工夫あり。泥田の黒牛が黙っている、作者も黒ずんで黙って旅ゆく。
ラムネ瓶太し九州の崖赤し
先ずラムネ瓶と九州の崖の取り合わせで読ませ、太しと赤しの対比で生命を感じさせる。
夜の深さ風の黒さに泳ぐ声
夜の闇が深く暗い、のは当り前であり、夜泳ぐことも目新しくはない。風が黒い、と感受した点に工夫あり。