松の根っこ(8/15)
寒と雷
寒は死を、雷は生命を連想させる。
寝がへれば骨の音する夜寒かな
骨の音する夜寒、に凄みがでた。俳句を始めた昭和八年、三十三歳、『走馬燈』に入選した二句のうちのひとつ。
寒明けぬ牲(にえ)の若者焼く煙
昭和二十七年、『天狼』三月号に掲載されている句だが、牲の若者を焼く情景が、日本の実景なのか映像を見ての作なのか不明だが、俳句の題材を選ぶ三鬼の嗜好が表れている。
酸素の火みつめ寒夜の鉄仮面
多分アーク溶接の現場を見たのであろう。火が出てくるが、熱も生命力も感じないのは、鉄仮面だからである。
極寒の病者の口をのぞき込む
初五、中七、座五と畳み掛けて死へ導くごとくである。
雷火野に立ち蟻共に羽根生える
まるで白亜紀の生命誕生の場面に立ち会っているようではないか。
湖畔亭にヘヤピンこぼれ雷匂ふ
昭和十三年、信州の山の湖に遊んだ時の作とのこと。ヘアピンが落ちていて雷が鳴っていたのであろうが、女性のぬばたまの髪を連想させる。動詞の使い方でこのような効果がでた。絵解きをすると通俗小説になるくらいの物語性がある。
実に直線寒山のトンネルは
昭和三十六年天狼に発表、初句が実にユニーク。寒山という硬い漢語、トンネルという無機質なものとの配合も効いている。