天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

湖のうた(1)

琵琶湖

湖は古く「淡海」といったが、これは潮海に対する淡水の海の意味であった。「あふみのうみ」から「あふみ」「近江」と変わり、代表として琵琶湖を差す言葉になった。「鳰の海」も琵琶湖のことである。みづうみは単に「うみ」とも言った。以下の一首目、三首目が参考になる。


  近江の海夕波千鳥汝が鳴けばこころもしのにいにしへ思ほゆ
                 万葉集柿本人麻呂
  水うみに秋の山べをうつしてははたばりひろき錦とぞ見る
                  拾遺集・法橋観教
  鳰(にほ)の海や月の光のうつろへば浪の花にも秋は見えけり
                 新古今集藤原家隆
  みづうみに向ひてひらく谷口の木がくり水よ音たつるなり
                      島木赤彦
  空澄みて寒きひと日やみづうみの氷の裂くる音ひびくなり
                      島木赤彦
  みづうみに岸の青山うつりゐてあそぶ此の日も夕ちかみきぬ
                      木下利玄
  朝されば雲を、夕されば星をやどし千年(ちとせ)黙(もだ)ゐけむこれの山の湖(み)
                     佐佐木信綱
  こぎ進み湖心(こしん)にいでて猶きこゆ岸の木群(こむら)のひぐらしの聲
                     佐佐木信綱


二首目の「はたばり」は、横のひろがり幅のこと。島木赤彦の湖は、故郷の諏訪湖を差していよう。