天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

湖のうた(3)

諏訪湖

  ものの音絶えたる闇ぞ氷(ひ)の湖(うみ)のひしひしといま身を
  緊むる闇                武川忠一


  轟然と湖(うみ)の氷の亀裂する地鳴りになにをよろえるわれぞ
                      武川忠一
  くだけつつ岸辺に湖(うみ)の薄氷のきらめき蒼し朝光(かげ)の中
                      武川忠一
  さらさらと澄みたる音に鳴り寄りて水際(みぎわ)にゆるる湖の薄氷
                      武川忠一
  濁り波夕べすさびし湖凍るみずから閉ざす薄明の生
                      武川忠一
  薄明にくだけ漂うみずうみの氷とわれとゆれつつ蒼し
                      武川忠一
  遠ざかる背を追う風に薄明の湖(うみ)の枯葦からからと鳴る
                      武川忠一


武川忠一は湖を多く詠んだが、長野県諏訪郡上諏訪町(現諏訪市)の生まれなので、湖といえば諏訪湖をさすと思ってよいだろう。諏訪湖はかつては冬季に厚い氷が湖面をおおい、御神渡り(おみわたり)と呼ばれていた。ワカサギ釣りでも知られていた。しかし、戦後の高度経済成長期にかけて農地からの化学肥料由来の栄養塩類や生活排水などにより湖の富栄養化が進み、過栄養湖へと変化した。その後、下水道の整備事業などや水質改善活動で、大幅に水質が改善されているが、昭和初期の姿を取り戻すまでには至っていない、という。