湖のうた(6)
さすらへる湖(うみ)ありしとふ ひる睡るきみが涙湖(るいこ)の
はるけさに似て 大塚寅彦
蒼々と水を湛ふる美和の湖(うみ)まこと静かに雪の降りしく
下平武治
テラスより独りし見れば鶸(ひわ)色の光溢るる山の湖
道浦母都子
形なき水をたたへてみづうみと呼ぶ寂けさよ時雨のおくに
加藤知多雄
ものおもふひとひらの湖をたたへたる蔵王は千年なにもせぬなり
川野里子
湖(うみ)陰(ほと)に息づきあわしと波は言い遥けくかなしと
波はまたいう 香川 進
みづうみに鴨はねむりてこの夜の星の眉引(まびき)の荒くありけり
山中智恵子
一首目にある涙湖は、眼科の解剖上で場所が定義されているが、この歌では比喩的に使われている。
二首目に出てくる「美和の湖」は、ダム湖(人造湖)。長野県伊那市の天竜川水系三峰川(みぶがわ)に建設された。
川野里子の歌では、蔵王の火口湖「御釜」(五色沼)が詠われている。
香川 進の歌はエロスを感じさせる。
山中智恵子の歌では、「星の眉引(まびき)」が分らない。星の分布がまばら、ということか。