富士のうた(4/5)
むらさきの夕かげふかき富士が嶺の直山膚(ひた
やまはだ)をわがのぼり居り 古泉千樫
青潮の彼方にはろか富士が嶺のしろじろとして
あらはれゐるも 前田夕暮
生きの日のかなしみをたへここにきて富士にむかへば
心澄みたり 前田夕暮
不二ケ嶺は七面(ななも)も八峰(やを)もつむ雪の襞(ひだ)
ふかぶかし眩ゆき白光(びやくくわう) 北原白秋
相模のや三浦三崎は誰びとも不尽を忘れて仰がぬところ
北原白秋
夕焼がわが家の上に及ぶとき富士酔つぱらひの顔してたてる
藤岡武雄
一の姫盗りて走りし雄ごころを恋うとき富士は堂々とせり
馬場あき子
天の原富士が嶺(ね)曇れりわれの読む小説にいま春雨ぞ降る
佐佐木幸綱
一首目: 古泉千樫は富士山に登ったことがあるようだ。心臓は丈夫でなく肺結核を患って、満40年10ヶ月余の生涯を終えたのだが。
北原白秋の二首目: 三浦三崎に住んでいた頃の住民の観察からできた歌。
藤岡武雄は赤富士を見ているのだろう。