滝のうた(3/6)
吉野山滝のながれに花ちればゐせきにかかる浪ぞ立ちそふ
伊達政宗
春風に岩波高き音ばかりかすみ残せる峯の滝つせ
塙 保己一
あしたづの翅のうへに玉しきて神やますらむ滝のみなかみ
加納諸平
滝つぼのよどみ藍(あゐ)なす中つ瀬の黒岩のうへに立てば
涼しも 伊藤左千夫
茂りたつ青葉の谷に滝はおつ川をへだててあふぎ飽かぬかも
結城哀草果
みなぎらひ茂みを出でし激(たぎ)つ瀬は蝕(むしば)む蕗の
葉むらを浸す 柴生田 稔
みなぎらふひかりの滝にうたれをるみそぎの死者は梢(うれ)
わたるかな 前登志夫
山人とわが名呼ばれむ萬緑のひかりの瀧にながく漂ふ
前登志夫
柴生田 稔と前登志夫の歌で、「みなぎらふ(漲らふ)」は短歌用語で、激しくしぶきがたつ、水勢が盛んになる、満ちあふれている、という意味。前登志夫は、奈良県吉野郡下市町広橋に生まれた。詩人であり歌人であったが、晩年は吉野に住み、家業の林業に従事しながら詩歌活動に励んだ。