天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

仏像を詠む(1/4)

十一面観音(妻の木彫から)

  みとらしの蓮華色褪(あせ)いよいよに十一面観音唇朱し
                    太田絢子
  観音のすずしき眼みそなはし春野をゆらに月のぼりそむ
                    原田 清
  闇のなかに仄かにあかるみくる視野の慈母観音の春の
  てのひら              三枝浩樹


  じゃがたらの咲きたるまひる渡岸寺(どうがんじ)のくわんおん
  に問ふこと多かりき        辺見じゅん


  わが母を返し申さむ観世音勢至諸菩薩よ導き給へ
                   内野芙美江
  水瓶(すいべやう)に春の大和のうすあかり今汲みぬとて
  佇つ観世音             永井陽子


  「くわんおんはわれのごとくにうるはし」と夢に告げ来し
  百済びとあはれ           水原紫苑



今までに取り上げなかった仏像の歌を、このシリーズで紹介したい。

読解の便宜のために、以下にいくつか注釈しておこう。
みとらしの: 手にお取りになるもの。また、弓の敬称。
みそなはす: 「見る」の尊敬語。ごらんになる。
滋賀県長浜市高月町渡岸寺の向源寺には国宝の十一面観音像がある。
百済観音は、奈良県斑鳩町法隆寺が所蔵する飛鳥時代作の木造観音菩薩像である。国宝に指定されている。修学旅行で見たことのある人は多いはず。