天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

火星のうた

火星(ハッブル宇宙望遠鏡による)

7月31日に火星が地球に最接近した。その距離5,759万キロメートル。2003年の最接近以来15年ぶりという。
火星は五行説に基づく呼び名で、中国の天文史料では熒惑(ケイコク、エイコク)といった。
その大接近は災いの前兆と考えられての命名という。同音の「螢」は誤使用になるらしい。営惑とも書く。以下の塚本邦雄と片平阿佐子の歌に要注意。


  螢惑星(けいこくせい)を水に隕とせし誰がうたぞわれより
  こゑ清きほととぎす             塚本邦雄


  久久の出逢ひなるべし満月に寄り添ふ如く火星は冴ゆる
                        平井軍治
  近づきし火星赤赭け見えをれど星は星ゆゑ孤独に光る
                        秋葉四郎
  火星炎えゐる夜となりたりわれは未知の女のやうに髪洗ひ立つ
                        雨宮雅子
  「火星(けいわく)月に入れり」とふ一節をゆゑなく虞(おそ)れ
  辞書を伏せたり              片平阿佐子


  たまたまに大き火星と巡り合ふこの感動に夜空を見さく
                       飯島まさよ
  ひたひたと火星の迫る夜半となり月下美人が相つぎて咲く
                         篠 弘
  アンタレスと火星近づく夕べなりあの人をやはり好敵手
  (ライバル)と思う              古谷 円


  火星より地球を見れば北半球光りゐむ中に吾が眠りゐる
                        内田 弘


 以上の作品で、火星が近づいたというのは、多分2003年の最接近を指していよう。
熒惑星(火星)は不吉な星とされ、特に心宿(アンタレスあたり)で順行・逆行を繰り返す現象は熒惑守心と呼ばれ,世の中に異変が起こることの不吉な予兆と言われていた。