墓を詠む(3/8)
わた中のかかる島にも人すみて家もありけり墓もありけり
佐佐木信綱
今日よりは旅びとならずいとし子のなつ子が墓をここにし持てば
窪田空穂
一つ墓碑に並べ刻める四つの名よ愛(かな)しきその名は皆わが書きし
窪田空穂
死はやすきものとし思ふ白々と墓おほく立つ冬草の上
尾上柴舟
ゆきつきて 道にたふるる生き物のかそけき墓は、草つつみたり
釈 迢空
幼くて亡(う)せしは墓もささやかにあはれ戒名を並べ彫りたり
植松寿樹
親のために建てたる墓の白々とま新しきが今日は君の墓
植松寿樹
葛城の夕日にむきて臥すごときむかしの墓はこゑ絶えてある
前川佐美雄
窪田空穂や植松寿樹の歌は、まことに身につまされる。生きとし生けるもの全て死ぬ定めなので、執着から逃れたいと思うものの、人生を共にした人たちに対する哀惜の情は断ち難いのだ。
佐佐木信綱、尾上柴舟、釈 迢空、前川佐美雄 たちの作品は、さまざまの墓の情景を客観的に詠んでいる。なお奈良県の葛城(山)は有名な歌枕で、読み方は「かづらき」が正しく、「かつらぎ」は不可。