墓を詠む(8/8)
こころ語ることにもあらず行き連るる墓苑のさくらまた老樹なす
近藤芳美
家継がぬ吾をいさめし母と思ひ建てし墓処に雪淡く舞ふ
光山半弥
おだやかな陽に 小草と鎮まる墓地 今在ることを 踏みしめる。
井伊文子
暮れなずむ墓地に遍き晩夏光 生き行きて一基の墓となること
黒住嘉輝
拾ひ来し五色の石を娘の墓地に花の形に並べる春の日
小野亜洲子
軋みつつ人々はまた墓碑のごとこの夕暮れのオールを立てる
寺井 淳
母が墓標に夏の光のしらじらと生きて倖せなりしかと問ふ
蒔田さくら子
われ逝かば湖(うみ)に墓標を建ててくれ鯉 鮒 ハスと暮らさむがため
小西久二郎
家を継がないと子が言うとき、親は自分の墓はどうなるのだろう、と心配になる。その母を思って建てた墓に淡雪が舞う、と光山半弥は詠う。蒔田さくら子の歌で、「生きて倖せなりしかと問ふ」のは誰であろう? 墓に入っている母なのだ。なお、井伊文子の歌は、散文の破調で読みにくい。小西久二郎は滋賀県彦根市生まれで、琵琶湖を愛し琵琶湖の歌を詠み続けた。