月の詩情(7/12)
物語絵巻的作り
与謝蕪村は南宋画(文人画)をよくし、その力量は国宝に指定される作品があるほど高いものであった。つまり絵師としての想像力や表現力に秀でていた。それが俳句作法にも顕著に表れた。幻想的物語絵巻的作りである。古典に拠らないものでもその特徴を見ることができる。蕪村句の例をあげる。いちいちの説明は不要であろう。
女倶(ぐ)して内裏拝まんおぼろ月
賊舟(ぞくしゆう)をよせぬ御船(みふね)や夏の月
盗人の首領歌よむけふの月
水仙に狐あそぶや宵月夜
のり合(あひ)に渡唐(とたう)の僧や冬の月
蕪村俳句を高く評価し、世に広く知らしめた正岡子規にも蕪村のこの作法を模倣したと思える次のような作品がある。
大名のしのびありきや朧月
女負うて川渡りけり朧月
月千里馬上に小手をかざしけり
長き夜を月取る猿の思案かな
辻君の辻に立待月夜かな
子規も素朴な草花の水彩画を句に配した俳画を描いている。