天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

スミレと薺(なづな)(3/10)

蟻地獄

二 干渉部
基底部に働きかけて、ともどもに一句の意義を方向づけ、示唆する部分。基底部との重複による意義の方向づけを主な任務とする。一般にそれほど大きなスペースを必要としない。
干渉部の修辞法について。基底部の文体上の意外性即ち「俳意」の意義の方向づけを行う。どうすれば基底部のはらむ興趣を最大限に生かし得るか、基底部からどのように豊かで興味ある意義を生み出せるかという観点から選ばれ、工夫される。以下では、それぞれの場合につき五例あげ、中から一句を取りあげて、意義を簡単に解説する。
A 組合せの妙による語の生かしかた、イメージのふくらませかた
       夏野の道<風のかたちの娘達>
       露世界<つるみし犬に脱帽す>
       ちよつちよつと<貌なめに来る秋の蠅>
       <おどろいて草を飛びゆく>秋団扇
       <長城に唸りぶつかる>熊ん鉢
一番目の句では、「夏野の道」によって、そこを行く娘たちの軽やかな衣服が、風に吹かれている情景が、くきやかにイメージされる。
B 重複による意義の指示
       大南風(おほみなみ)<黒羊羹を吹きわたる>
       <うぐひすといふには拙>まだ一寸拙
       あ初蝶<こゑてふてふを追ひにけり>
       <藤の実の棚よりたらり>たらりらと
       弧状列島<さくらの国の住民票>
「弧状列島」は「さくらの国」が日本であることを重複して指示している。
C 干渉部が基底部と対立する場合
       涼しすぎぬ<薩摩硝子(ガラス)の涼しさよ>
       紅葉鮒<伊吹の山が削られて>
       <老鶯の遠ざかるにや>近づくにや
       惑星の重さ<葡萄の房の重さ>
       <鬼房のそつと見せたる>冬菫
二番目の句では、紅葉という名がついているが、その鮒が棲んでいる所は川。それに「伊吹の山」を対立させて、紅葉鮒が獲れる川とその上流の山が削られている情景が見える。
D 干渉部を大胆に省略する場合があるが、解釈が難しくなるあるいは分れることがある。
       懐中電燈<げらげら笑ふ藪がらし>
       <心臓がひとりひとりに>紅葉山
       豆飯や<彗星世紀の彼方へと>
       いいでせう<アメリカ山法師の実>
       枯山水<恋猫について来られても>
二番目の句については、みんなで紅葉狩りに出かけた山で、息が切れて心臓がどきどきした時、人間には心臓があることをあらためて意識した、という感動である。
E 干渉部が一句の意義そのものを直接語る場合
       おお寒むと<杓子売る店とざしける>
       蟻地獄<寂滅為楽の鐘の下>
       柚子湯です<出て来る客に這入る客>
       <鬼柚子をもらひそこねし>手ぶらかな
       <啓蟄の土に叩頭>腕立て伏せ
一番目の句では、「おお寒むと」によって、店を閉ざしたわけが語られている。