声を詠む(2/10)
声の語源は、「聞こえ」の「き」が落ちた、「ことあへ(言合)」の約 などの説がある。
慨(うれた)きや醜霍公鳥(しこほととぎす)今こそは声の
嗄(か)るがに来鳴き響(とよ)めめ 万葉集・作者未詳
秋萩の恋も尽きねばさ男鹿の声い続(つ)ぎい続ぎ恋こそ
益(まさ)れ 万葉集・作者未詳
おくやまに紅葉ふみわけなく鹿の声きくときぞ秋はかなしき
古今集・読人しらず
待つ人にあらぬものから初雁の今朝鳴く声のめづらしきかな
古今集・在原元方
ひとりのみ恋ふればくるし呼子鳥声になき出て君にきかせむ
後撰集・読人しらず
よりあはせてなくなる声を糸にして我が涙をば玉にぬかなむ
古今和歌六帖・伊勢
あきぎりの晴れせぬ峰に立つ鹿はこゑばかりこそ人に知らるれ
後拾遺集・大弐三位
一首目は、鳴かないほととぎすに対する罵倒の歌で、「いまいましいな、ばかホトトギスめ。今こそは声もかれてしまうほどに、飛んできて鳴き声をひびかせてみよ」という意味。
二首目: 「秋萩を恋する気持もまだ終らないのに、男鹿の声が次々と響いてきて、秋の恋心はつのるばかりだ。」(中西進訳による)
三首目: 二首目にも関係するが、万葉集では鹿詠んだ歌は、68首にもなり、そのほとんどは、鹿の鳴く声を詠んでいる。また萩を同時に詠みこんだ歌が多く見られる。
古今集の二首目: 「待つ人ではないけれど、初雁の今朝鳴く声が、珍しくて嬉しいことよ」
後撰集・読人しらず に出てくる呼子鳥とは、古今伝授の三鳥の一つで、カッコウといわれる。鳴き声が子供を呼ぶように聞こえるところからの命名。