声を詠む(3/10)
郭公(ほととぎす)あかで過ぎぬるこゑによりあとなき空に
ながめつるかな 金葉集・藤原顕輔
郭公(ほととぎす)すがたは水にやどれども声はうつらぬもの
にぞありける 金葉集・藤原忠通
夜はになく声にこころぞあくがるる我が身は鹿のつまならねども
金葉集・内大臣家越後
声はして雲路にむせぶほととぎす涙やそそぐよひの村さめ
新古今集・式子内親王
郭公(ほととぎす)ふかき峰より出でにけり外山のすそにこゑの
落ち来る 新古今集・西行
梢よりおちくる花ものどかにて霞におもきいりあひのこゑ
風雅集・花園天皇
人かへる夕山かぜもさはぎたつちりのうちなる市のこゑごゑ
後柏原院
この一連では、声は郭公(ほととぎす)が4首、鹿が1首、人々が2首 詠まれている。鹿については、鳴き声をどのように聞いたかは判然としない。「ひひ」「かいよ」「びい」などと聞いた、という説があるが、そうした音声に魅かれたというのは、考えにくい。むしろ秋になると牡鹿が牝鹿を呼んで悲しげに恋しく鳴く情景に強くひかれたのである。