声を詠む(6/10)
わが内なる聲はときのまも汝を呼び呼び止まぬかも人と居りつつ
五味保義
録音機のわが声低くうたいいで鋭(と)き深谷(ふかだに)のごとし
夜の部屋 伊藤一彦
迫力のなくなれる声などといふなかれひとつふたつ歯の欠けたるゆゑぞ
木俣 修
紅桃が咲くといひサンダルの片方が見えぬといふ声すよき日となるべし
真鍋美恵子
囀りのゆたかなる春の野に住みてわがいふ声は子を叱る声
石川不二子
しみじみと聞きてしあればあなさびし暗しもよあな萬歳の聲
葛原妙子
見はるかす家並に起る音のなかふいになまなましき人間のこゑ
椎名恒治
木俣修の歌には笑ってしまう。真鍋美恵子の歌は、情景が目に見えるようだ。
石川不二子は、農学を学ぶ女性という先進的な自己像を描いた青春歌から出発し、五男二女を育てながら岡山での開拓農場生活や動植物との交歓を平明で率直に詠んだ。
「萬歳」は、めでたいときやうれしいときに、その気持ちを込めて発する感動語である。戦時中には出兵する兵士を送り出すときにも「萬歳」を三唱した。葛原妙子の歌には、そんな歴史もあることを思わせる。