声を詠む(7/10)
美しく醒めて生きよと父の声満身創痍のみどりしたたれ
辺見じゅん
静脈の枝分れ見ゆもろ人の刃なすこゑわれが受けとむ
辺見じゅん
張り上ぐるわが声われに響くとき窓に来てゐし鳩を忘れず
柴生田 稔
もろくさに少女は伏して聞こえくるひとこえ終わり声萌黄なり
香川 進
ひらひらと峠超えしは鳥なりしや若さなりしや声うすみどり
斎藤 史
ああ君は傍若無人うらうらとせし声ながらわが胸を刺す
三國玲子
耳深く残れるは何の声ならむ遠き夜鳥もすでにやみしを
若浜汐子
辺見じゅんの作品には、複雑な家庭環境を反映した私小説風なものと、丹念な聞き取りを元にしたノンフィクションとがある。一首目が前者、二首目が後者と解することが可能であろう。
香川進の歌は、まことに分かりにくい。「もろくさ」とは、多くの草の意味か? そこから聞こえてくる一つの声が終り、その声は萌黄であった、ということか? 「もろくさ」と「ひとこえ」とが矛盾していないか? また声が終わったあとに萌黄色である、と言われると聴覚から視覚が呼び出された、と解釈することになるが。