天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

声を詠む(8/10)

受話器

  わたくし あなた うめ もも さくら 声たてて言えば 
  胸あたたまる日本の言葉          信夫澄子


  丘の上の天つ光に“重荷なら捨てよ”と言いし声のかえるも
                       大島史洋
  ロンドンの冬告ぐる声か細くて受話器に暗き風の音湧く
                      羽生田俊
  ひとはなぜ亡きひとのこゑを憶えゐる呼ばれればすぐに振り
  むけるほどに               河野裕子


  生きてみてこんなものかといふ声す自らの声か或いは死者の
                       扇畑忠雄
  ほぐれがたき声われを呼ぶ夢のなか鳥従えて睡らず耳は
                       住 正代
  「発音より声が変だよ」”Hello,Hello,”「声はふつうに
  出せばいいんだよ」           小島ゆかり


大島史洋の歌では、作者は丘の上の天つ光に向かってなにかを問いかけたようだ、それに応えて声がかえってきたのだ。
住正代の歌は分かりにくい。「ほぐれがたき声」とは、鳥の鳴き声か? その鳥を耳が従えて眠らない、という比喩か。
小島ゆかりの歌では、発音と声とは違うことを理解する必要がある。例えば風邪をひいていると声は変質するが、発音のしかたは不変である。