天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

病を詠む(4/12)

沙羅の花

         
  こころの悲(ひ)からだの患(かん)と分かちがたく今朝も白粥の
  椀を食(たう)べぬ          春日井 建


  さしあたり満足すべき境涯となりしうつつは病床にをり
                     佐藤志満
  癒ゆるなき身は帰らなん沙羅の花さきて妻子(つまこ)の待ち
  ゐる家に              上田三四二


  ほがらかに日々ありくるるわが妻よ動けぬわれは声になぐさむ
                    上田三四二
  冬草の丘に祈りの長きときやまひは人を離れゆくべし
                     大野誠
  病もつものの自在に怠けゐる日々に視力のたちかへり来よ
                     木俣 修
  わが病ひかならず癒えてゆくならむ心いやしさ今われになし
                     福田栄一


春日井建は晩年に咽頭癌を病んでいた。それが発見されたのちも海外旅行に出かけたりしていたが、心は悲しみに満ちていたようだ。この歌は肉体と精神の観念をテーマにした美学の集約ともとれる。なお、私事ながら、春日井建氏には産経歌壇において数年間、選歌のお世話になった。何度か頂いた特選の評が貴重な思い出になった。
上田三四二は、長年、結腸癌や前立腺腫瘍などに苦しみ療養生活も体験した。