病を詠む(6/12)
貧は我を病は汝を育てきと思ふ病に汝は倒れぬ
土屋文明
新しく萌して吾のたもつもの病癒えたる孤独といはん
川島喜代詩
病癒えて妻を伴う冬(ふゆ)園(ぞの)の裸木の梢みな天を指す
前田 透
おのづからこころ閑かに生きゆけば病ひある身は日月長し
安田章夫
怠けつつ日を経ることも大切と病ひある身は怠けてぞゐる
安田章夫
やまひある人のうしろを歩みゐて淡き挨拶の言葉を持てり
岡井 隆
葉摺(はず)れ雨音(あなおと)ふたたび生きて何せむと病む声は
告ぐ吾(あ)もしか思ふ 岡井 隆
川島喜代詩は、20代はじめから佐藤佐太郎の短歌に親しみ、「歩道」に入門した。
30代に入ってから、仕事の多忙のため病に倒れ、作歌を一時中断した。
安田章夫は尾上柴舟門下の歌人であり、藤原定家、西行研究の国文学者であった。
医師でもあった岡井隆は、患者の様子も歌に詠んでいる。