病を詠む(7/12)
十年のわれの病をみとりつつ妻も老いたり髪白くなりて
五味保義
癒えがたき病を生きて見る萩のくれなゐ深し月の光に
桐原美代治
ある日ふと病(やまひ)あらはれかなしげな顔して春の
われをみつむる 馬場あき子
病む父が花とよびゐし死のことを椿咲く日は思ひて黙す
馬場あき子
病みがちに生きて桜のはな食ぶる現(うつつ)もあはれ野の
鳥に似て 田谷 鋭
病みてよりわが声いたく濁れりと妻言ふは誰(た)が言ふより悲し
田谷 鋭
夜ごと見る夢をも病は侵すかとよしなきことを考へてゐる
吉田正俊
馬場あき子の一首目は、擬人法にして病の側から作者を見詰めるという独特な感性を詠んでいる。言われてみれば、そんな経験をしたような気持にもなる。
桐原美代治は結社「形成」の木俣修氏に師事して、茨城新聞「茨城歌壇」の選者を務め、89歳の長寿を全うした。歌の「癒えがたき病」の詳細は不明。
五味保義と田谷鋭は自分の病気と妻との関係を詠んでいて、悲しく切ない。