病を詠む(9/12)
病みながら痛むところの身に無きを相対的によろこびとせん
佐藤佐太郎
妻の病めば子供もいたく静かにて襖を少しあけて見ている
大島史洋
粉雪より霙に変はる白日(まひるま)を押されし花のごとく病みゐき
塩原早智
病み呆けて行く幸ひも今おもふ厭はれて人にもの言ふよりは
柴生田 稔
日をさけて北側の窓に坐ること慣ひとなりぬ壮(わか)く病みてより
柴生田 稔
臥すのみにわれは生きおり人みなの歩み垂直なる不可思議よ
引野 收
冬の脈うすき腕(かいな)も生きおれば温みが占むる一畳の床
濱田陽子
塩原早智の歌の直喩「押されし花のごとく」は、どのように解釈したらよいか。押し花のように全く身動き不可能な状態を指すのだろう。
引野收は、肺結核にかかり、40年間にわたり絶対安静の寝たきり生活を送りながら、歌人である妻の濱田陽子とともにいのちや平和の尊さを歌い続けた。
濱田陽子の歌は、夫のかすかな命を見詰めているもの。