病を詠む(10/12)
わが病むを知らざる人らわが心の広場に遊ぶ楽しきさまや
高安国世
病み臥して高層の窓より眺むれば何の裏側かこの秋天は
栗木京子
病めるゆゑ見むと思ひて歩みゐぬ長江に光 無限のきらら
石川一成
病みながら大き屁ひりてかしこきろ六十七歳を迎へたりけり
宮 柊二
病めるものを擁きしめしのみ秋の樹々吹かるるごとく
ふたり眠りぬ 水落 博
病み病みていのち細れる老いびとの眼(まな)蓋(ふた)乾く
寒長きかな 鈴木英夫
朝が来て昼が来てまた夜が来るこの常凡に病む身養ふ
葛原 繁
石川一成は、日中国交間もない中国四川省重慶の四川外語学院にて2年間日本人としてはじめて日本語教師を務めた。この歌の上句が分らない。病気ながら実際に長江を見に行ったのだろうか。ちなみに長江は最下流部の異称である「揚子江」の名で良く知られている。
鈴木英夫は明治45年の生まれで、北原白秋に師事し昭和10年「多磨」創刊に加わる。戦後,医院をいとなむかたわら「コスモス」創刊に参加。
98歳の長寿を全うした。