冬を詠む(6/9)
冬きたる野の木野の草限りなく衰ふるものに美しさあり
窪田空穂
剛直に立ちあがりつつ冬に入る藤の根方を見て帰りゆく
河野愛子
葉を振い冬の欅の立つ見ればわが生き何ぞ今
いさぎよき 前田 透
来ん年はよきこともあれ武蔵野は今日風打ちて
冬に入る空 前田 透
北ぐにの冬は乏しき日に乾して鰯の顎(あぎと)透くがに清(すが)し
岡部文夫
みかんむく指さえ意志を持ちおりてせつなきまでに冬静なり
吉沢あけみ
冬ぐもる空の寒さの芯となり細き螺旋の階のぼりゆく
三輪芳子
窪田空穂は、長野県出身の歌人、国文学者。「明星」的ロマンティシズムから始まり、自然主義文学の潮流を短歌に導入した。日常生活の些事を詠み続け、「境涯詠」と呼ばれるようになる。長歌も多く詠んだ。本格的な登山にも挑戦している。(詳しくは、https://ja.wikipedia.org/wiki/窪田空穂 を参照。)
岡部文夫は、石川県出身。同郷の坪野哲久の影響を受けて歌誌「ポトナム」に入会、「短歌戦線」の創刊に参加、プロレタリア歌人となる。しかし後にプロレタリア歌人同盟を脱退した。「海潮」を創刊、主宰。享年82。(詳しくは、https://ja.wikipedia.org/wiki/岡部文夫 を参照。)