冬を詠む(7/9)
厨辺にぽとりぽとりと水おちてうつぶせのごとく冬に入るなり
小高 賢
山はいま冬に入らむひそけさに残るもみぢの黄に澄み匂ふ
高橋誠一
わが去らば冬は到らむ高原のすすきの穂より生れいづる霧
篠 弘
渺茫というほかはなき深みどりもうまもなくの冬を湛えて
俵 万智
杜氏より酒の案内の届く頃冬もよろしと思ほゆるなり
對馬恵子
山茶花の白き花びら散るところ土より冬の寒さはのぼる
藤岡武雄
哭くごとく鬼の城よりぞ吹きをろす風を聴くべしまた冬の来て
川野弘之
小高 賢の歌: 「うつぶせのごとく」という直喩は、上句の情景を見詰めているところから生まれてきたものだろう。上手い表現。
川野弘之の歌: 「鬼の城」(きのじょう)とは、岡山県総社市の鬼城山(きのじょうさん)に築かれた日本古代の山城を指す。倭国が白村江の戦いで唐・新羅連合軍に大敗した後、大和朝廷は国の防衛のために、中国地方にいくつもの防御施設を築いたが、そのうちのひとつではないかと推定されている。日本100名城のひとつ。(詳細はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/鬼ノ城を 参照。)一首の初句「哭くごとく」の直喩が、「鬼の城」という言葉とよく合っている。