天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

知の詩情(2/21)

 具体的に考えてみよう。「知の詩情」とは、読者を立ち止まらせ考えさせて、笑い・ユーモアを誘い、あるいは納得させ妙に感動させる批評精神にみちた歌および作りかた、と定義できる。ウィットは、ユーモアに批評精神が入って生れるものである。技法上は、次のような顕著な特徴がある。
・助詞助動詞の使い方 ・副詞の通常ならざる思いがけない使い方 ・表記の工夫 
・固有名詞(特に人名)に現れる知識 ・先人の流儀の摂取(本歌取、パロディ含む) 
・とり合せ ・効果的な倒置法 ・視点の取り方(切り取り方) ・言葉の位置
 「知の詩情」は、第二芸術論への反論でもあった。第二芸術論では、三十一文字のような短い詩形でなにほどのことが言えようか、と言って戦前の短歌の無批判性を非難したが、それは見当違いであった。戦前は、時局を慮って詠えなかったまでのこと。そもそも時局を風刺・批判するには、古来、狂歌というものがあり、実に辛辣な批評が短い詩形で表現できたのである。塚本邦雄は、第二芸術論で、でれでれした感傷的な抒情とけなされた短歌の韻律を、語割れ・句跨りの導入により従来とは異なった新しい抒情があることを実作により証明した。そして小池光は、「知の詩情」により、狂歌に陥るのではなく短歌でも、十分な批評精神を発揮できることを、分かり易く示した。 

f:id:amanokakeru:20190107000422j:plain

小池光歌集