知の詩情(6/21)
小池も盛んに「あはれ」を使う。歌集別に使用頻度を調べてみると、高いところは、『廃駅』2.6%、『草の庭』2.5%。今までの七歌集で平均すれば、1.7%になる。小池自身の解説によると、あはれにはあらゆる感情が入る。その意味できわめて便利な抒情、詠嘆のオールマイティな装置であり、あはれの場面が特殊で意表をついたところに広がるのが近・現代短歌らしい工夫といえる、とする(『岩波現代短歌辞典』)。知の詩情の措辞として機能している小池の「あはれ」の例を次に三首あげる。
水辺に夏しのび来て真夜中のなぐさめにさらふ力学あはれ
『廃駅』
あはれあはれその縮小図セルビアといふ「大国」の軛 (くびき)を断つと
『草の庭』
ベニヤ板に描(か)かれしペンキの虹として戦後民主主義ふりにしあはれ
『静物』
ちなみに、一首目の歌に対しては、永田和宏の先行する歌に、
スバルしずかに梢を渡りつつありと、はろばろと美し古典力学
『黄金分割』
がある。共通する感覚であろう。