天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

知の詩情(7/21)

 第四の技法は、漢字の読み方。茂吉の歌では『つきかげ』から例をあげよう。
  米粒(べいりふ)は玉のごとしといへる句も陳腐(ちんぷ)といはばわれは黙(もく)せむ
  われ病んで仰向にをれば現身(げんしん)の菊池寛君も突如としてほとけ
  くろぐろとしげれる杉のしたかげにいまだも清き未通女(みつうぢよ)のこゑ  C


小池は、この茂吉の「漢字の音読」の効果をよく心得て、極端にまで推し進める。
  朝礼に迷ひこみ来し小犬 (しようけん)に女子整列のしばし乱るる
                          『草の庭』
  つんつんと黒松苗木ゆれゆれつせまる雨脚(うきやく)におどろきながら
                           『静物
  穿鼻男(せんびを)と穿耳女(せんじめ)とあひたづさへて浅草観音の階段のぼる
                       『時のめぐりに』 C


茂吉でも小池でもCの例のように、漢字にすることで象形文字による生々しさが現れる。 

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小池光歌集『静物