天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

知の詩情(9/21)

 第二の技法は、「・・少女」「・・男」などの造語である。塚本の歌から。
  海彦は水葱少女(なぎをとめ)得て霜月のうらうらととほざかりし白帆
                             『歌人
  氷上の錐揉少女(きりもみをとめ)霧(きら)ひつつ縫合のあと見ゆるたましひ
                           『星餐図』                          
  そのめぐりたちまち蒼(あを)み敗戦のラガー身をもむ雉子哭男(きぎしなきを)
                        『青き菊の主題』
  朝ねむる月讀壮士(つきよみをとこ)愛のため犂 (からすき)のごとかひなつかれて
                         『されど遊星』
  黄金週間一日(ひとひ)あませりうすぐらき四辻よぎる尺蠖少女(しやくとりをとめ)
                            『花劇』
  絶えて蝙蝠傘修繕人(かうもりなほし)見ざるを月明にひらと翔ちけり紅衣の男
                            『豹変』
 もともとは、『古事記歌謡』の「海人馳使(あまはせづかひ)」、「あたら清(すが)し女(め)」、「白檮原嬢子(かしはらをとめ)」、『梁塵秘抄』の「好色漢(すきをとこ)」、「桂男(かつらをとこ)」、『閑吟集』の「海士乙女(あまをとめ)」など古典歌謡や『万葉集』の「香少女(にほえをとめ)」、「栄少女(さかえをとめ)」などの例から、塚本が発展させた造語である。

 小池の例を、以下に太字で示す。妙にリアリティがあり実に分かりやすい。
  見上げては犬類(けんるい)ワンと吼える間をつなわたりびと進みつつあり
                            『静物
  「やまぎし」の卵売りくるま曇天に鳴らす音楽の天上の楽
                            『静物
  おもひいづる二十年(はたとせ)むかし春に来し髯うつくしき蜂蜜(みつ)採り男
                            『廃駅』
  とくとくとオレンジを飲むのどもとに汗はかがよふ青鹿少女               

                            『廃駅』
  くれなゐのラジ・カセを抱き 草少女(くさをとめ)くるまを出でて雪降るなかへ
                        『日々の思い出』
 なお斎藤茂吉には、次のような先例がある。
  めん鶏(とり)ら砂あび居(ゐ)たれひつそりと剃刀(かみそり)研人(とぎ)

  過ぎ行きにけり                   『赤光』
  ともし火のもとに出で來てにほえ少女(をとめ)が剣(けん)を舞ひたるそのあはれさよ
                            『連山』
二首目の少女は、万葉集に倣ったもの。 

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塚本邦雄『星餐図』